犯罪被害者支援
犯罪の被害に遭われた方やご遺族の方々は、睡眠や食事がとれない、精神的に落ち込んで体が動かないなど、生活にも支障をきたすほどの心痛を背負われておられることでしょう。当事務所もお察しいたします。
ところが、そんな状態にお構いなく、刑事手続はどんどん進んでいくことがあります。また逆に、刑事手続が遅々として進まない場合もあります。手続が分からずさまざまな不安を抱えておられると思います。民事については想像すらできない状態ではないでしょうか。
ここでは、刑事手続はこれからどうなっていくのか、どのようなサポートが受けられるのか、また、犯罪の被害について、民事手続で損害賠償を求めるにはどうしたらよいのかについて、解説したいと思います。
1 犯罪被害者の視点での刑事手続の流れ
犯罪が発生すると、110番通報や被害届、刑事告訴をきっかけに警察が捜査を行います。捜査が進むと、事件は検察官に送致されます。
事件が検察に送致された後は、検察官は、被疑者(罪を犯したと疑われている人)や被害者や目撃者などといった参考人の事情聴取など捜査を行います。
そして、検察官は、集めた証拠を検討した上で、起訴するか不起訴にするかを決定します。
起訴には略式起訴と公判請求というものがあります。
略式起訴の場合は、書面審査で罰金などの刑罰が言い渡されます。
公判請求の場合は、公開の法廷で審理が行われ、被告人が争っている場合には、被害者の証人尋問が行われることもあります。その後、判決が言い渡されることになります。
2 刑事手続における被害者の保護の制度
刑事手続は、被告人(罪を犯したとして裁判をされている人)が刑罰を受けるかどうかがメインテーマになりますので、以前は犯罪被害者は蚊帳の外でした。
現在では、犯罪被害者の保護が徐々に制度化されてきています。
刑事手続における被害者などの保護の制度としては、①氏名や住所などの被害者を特定することができる情報を法廷において秘匿する制度があります。公開の法廷は、原則として全てがオープンです。つまりこの制度は、犯罪被害者が関係ない第三者に被害を受けた事実を知られないようにする制度です。
また、②被害者などが証人尋問を受ける場合に家族や心理カウンセラーなどの付き添い、被告人や傍聴席との間の遮へい、別室に在席して法廷とモニターをつないで尋問を受けるビデオリンク方式の制度などがあります。
犯罪被害者は、ひどい心痛を受けているにもかかわらず、証言台に立って被害を証言しなければならないことがあります。その場合、加害者の前で話さなければなりません。性犯罪だと「セカンドレイプ」などとも言われ、とても辛い体験になってしまいます。
それを少しでも軽減するための制度です。
3 被害者が刑事手続に積極的に関与するための制度
刑事手続で、必然的に関わらなければならない場面で犯罪被害者を保護する制度だけでなく、積極的に関わりたい場合も制度化されています。
まず、裁判への被害者参加制度があります。これは、法律で定める重い犯罪については、犯罪被害者などが、公判期日に法廷で裁判に参加し、情状証人への尋問・被告人質問・事実や法律の適用についての意見を述べたりする制度です。
以前は、犯罪被害者が聞きたいことがあっても、直接聞けることはありませんでした。事前に打ち合わせをして検察官に頼んで聞いてもらうことはできても、その場で思いついたことを被告人や証人に聞くことは簡単ではありませんでした。
その場で意見をする権利を得ることで、犯罪被害者の気持ちを少しでも裁判で反映できることができます。
次に、心情などの意見陳述制度があります。これは、被害者参加制度を使うかどうかに関わりません。
犯罪被害者の心情は、ある意味当然のものとして、わざわざ裁判では取り上げられない傾向にありました。犯罪被害者に聞かなくても分かってます、ということです。
しかし、犯罪被害者にとって、分かってます、で済まされることではありません。裁判官や検察官や弁護人には「よくあること」でも、犯罪被害者にとっては一生に一度あるかないか、普通は一生経験することがない、他人には分かってもらえない苦しみです。軽く扱われることはさらなる心痛を受けることを意味します。一般的にも、犯罪被害者が心情を話し、裁判官や被告人、その他関係者に聞いてもらうということは、犯罪被害者の心痛を和らげる効果があることがあります。そのための制度です。
また、被害者傍聴制度というものもあります。有名な事件だと、傍聴希望者がいっぱいで、犯罪被害者などの関係者が裁判を傍聴できないということもありました。
そこで、希望すれば、裁判所が犯罪被害者などの傍聴席を確保するという配慮をするようになりました。
他にも、裁判所での記録の閲覧謄写制度、被害者等通知制度(できる限り,事件の処分結果,刑事裁判の結果,犯人の受刑中の刑務所における処遇状況,刑務所からの出所時期などに関する情報の提供)といったものがあります。
4 刑事手続に関連して損害賠償を受けるための制度
刑事事件は、加害者を処罰するための裁判であって、犯罪被害者の救済(救済といっても金銭的でしかありませんが)の裁判ではありません。別途、民事裁判を起こさなければならないという負担があります。
しかし、せっかく犯罪の内容を審理しているのに、救済のために別途一から始めないといけないというのは負担であり、ただでさえ心痛の犯罪被害者にとってはかわいそうです。
そこで、刑事裁判を利用して損害の賠償を受けるための制度ができました。
まず、刑事和解というものがあります。これは、裁判外で示談が成立した場合、刑事裁判所に申し立てて、合意内容を公判調書に記載してもらう、というものです。これによって、別途交渉するといった負担が避けられます。
また、損害賠償命令制度というものがあります。これは、法律で定める重い犯罪については、損害の賠償を、刑事裁判の訴訟記録に基づいて、その裁判体が審理をして損害賠償命令する制度です。これによって、別途民事裁判をする必要がなくなります。
5 不起訴になった場合の制度
犯罪があったからといって、全てが裁判になるわけではありません。検察官が不起訴処分をすることがあります。
しかし、犯罪被害者にとっては、その不起訴処分に納得いかないことも多いでしょう。
そこで、刑事事件が不起訴になった場合、検察審査会に申し立て、不起訴が不当ではないか、起訴が相当ではないかについて審理してもらうことができます。
また、不起訴の場合は証拠が検察官の手元でお蔵入りになってしまいますが、犯罪被害者は、民事裁判をするため、一定のものに限られますが、記録を閲覧することができます。
6 刑事手続以外の犯罪被害者の権利を実現するための制度
犯罪被害者等基本法において、国や地方公共団体は、犯罪被害者などが、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援などを途切れることなく受けることができるよう、施策を策定し実施する責務を有するとされています。
例えば京都市はその責務を果たすために京都市犯罪被害者等支援条例を制定しています。同条例に従って、各種のサポートが行われています。犯罪等による生活困窮者に対する生活資金の給付、住宅支援、被害回復給付金支給制度(被告人から没収した犯罪被害財産を金銭化して、給付資金として保管し、そこから事件の被害者などに給付金を支給する制度)の、犯罪被害者など給付金支給制度、精神的被害からの回復に向けた心のケアなどがあります。詳しくは、京都市ホームページなどをご覧ください。
7 法テラスを利用した犯罪被害者のための弁護士費用の援助制度について
犯罪被害者は、突如被害を被っているのに、その救済を求めるのにまた負担を強いられてしまうという不合理を強いられることになってしまいます。
そこで、犯罪被害者のための弁護士費用の援助として、法テラスは、犯罪被害者法律援助制度(日弁連委託援助制度)、国選被害者参加弁護士制度、民事法律扶助制度が作られています。
いずれの制度についても、利用する場合は、利用要件を満たす必要があります。利用要件及び手続の詳細については、ご相談の際にご説明させていただきます。
8 当事務所の強み
当事務所には、裁判員裁判事件をはじめとする刑事事件において、被害に遭われた方やご遺族の被害者参加人代理人として活動している弁護士が複数名いますので、安心して刑事事件のサポートをお任せいただけます。事件から時間が経っていても捜査が始まらないような場合の刑事告訴についても、ご相談をお受けできます。
また、もちろん当事務所では、民事裁判での損害賠償請求の相談も受けています。
さらに、当事務所では、京都犯罪被害者支援センター、京都府性暴力救援センター京都SARAなど京都の被害者支援団体と連携して、生活支援やカウンセリングへのご案内もしており、被害者やご遺族のお気持ちに寄り添いながら、包括的総合的なサポートをさせていただきます。