刑事事件について
弁護士から見た刑事事件は、大きくは、逮捕されたときと、裁判になったときの2つに分類されます。ここでは、これについて簡単に解説します。
ちなみに、刑事事件では、受任した弁護士は「弁護人」と言います。国に選ばれると「国選弁護人」、個人的に受任すると「私選弁護人」と言います。逮捕された人は「被疑者」と言い、裁判の段階まで進むと「被告人」と言います。民事事件では訴えた方を「原告」、訴えられた方を「被告」と言うので混乱しがちですが、意味は全く違います。
1 逮捕されたとき
普通、逮捕は突然されるものです。逮捕された人はその場で連れて行かれますので、びっくりしますし、不安も相当なものです。都合が聞かれることもありません。逮捕のせいで機会を逸して大損しても、賠償されることはありません。
逮捕された人の家族や職場なども、不安な中で対応に追われます。手続きも分からないし、逮捕された人に会わせてもらえるとは限らず、混乱も大きいことでしょう。
まずは弁護士に相談して、不安を取り除くことから始めましょう。各地の弁護士会には当番弁護士制度があり、そちらに出動してもらうというのもいいでしょう。
警察に逮捕されると、何をして捕まるのか(「犯罪事実の要旨」と言います)、弁護人を選任できること(「弁護人選任権」と言います)を告げられた上、弁解の機会を与えられます。ただし、実際には弁解をしても、逮捕が覆されることはまずありません。逮捕された人は「被疑者」と言います。
逮捕で一番影響があるのは、被疑者は身柄拘束されるということです。
警察は、逮捕して、そのまま被疑者を身柄拘束しないといけないと判断すると、検察官に送致します。
検察官は、引き続き留置の必要があると判断すると、裁判官に対し勾留を請求します。
裁判官は、勾留の要件があると判断すると、警察の留置施設等で身柄拘束されます。
勾留期間は、検察官が延長請求することができ、やむを得ない事由があると裁判官が認めると、延長されます。
この逮捕からの流れを時間で見ると、
警察 逮捕後48時間以内に検察官に送致
検察 官24時間以内に裁判官に勾留請求
裁判官 勾留決定で10日間、延長決定でさらに10日間
となります。
検察官が勾留請求しない、裁判官が勾留決定しないということもあるのですが、滅多にありません。速やかな弁護人の選任と熱心な弁護活動があれば、要件非該当を理解してもらえて、ひょっとしたらそういうこともあるかも、という程度です。
こうして、逮捕・勾留されると、短くても12日間あまり、長ければ最長23日間、身柄拘束されることになります。
この間、被疑者は、警察官・検察官から取調べを受けるなどし、疑われている事件(この段階では「被疑事件」と言います)について捜査をされます。
この段階で重要なのは、取調べ対応です。たまに警察官に脅されて嘘の自白をしてしまった、という事件が起こりますが、そういうことを防止しなければなりません。そういうことが起こると、えん罪も発声しますし、真犯人の追及もできなくなります。
法律では、特にえん罪を防止するため、被疑者には、黙秘権、供述調書の訂正申立権、供述調書の署名あるいは指印拒否権といった権利が認められています。
しかし、たった1人で、警察や検察官に対し、権利を実際に適切かつ的確に使う、というのは至難の業でしょう。それが23日間も続けば、心身ともに強い負担を受け、病んでしまいかねません。
少しでも早く弁護士に相談して、効果的な弁護活動をしてもらい、警察や検察官に対してゆるぎない姿勢を示すことが大切です。
逮捕されそうになったとき、あるいは逮捕されてしまったときは、ただちに弁護士(まずは自分や家族などが依頼する弁護士でも、当番弁護士でもかまいません)に面会しましょう。また、逮捕されなくても、身柄拘束されないままで被疑者として取調べなどを受けるときもありますが、この場合も同じです。
弁護士には、有利・不利を問わず、事件にいたる経緯や状況を正確に話しましょう。弁護人になる前の弁護士でも守秘義務がありますし、安心して話していただけます。情報は警察が握っていますので、せめて被疑者が正確な情報を話さないと、見通しを検討することができません。
弁護士が弁護人に就任すると、取調べ対応の他、家族との連絡の仲介をしたりもしますが、不起訴(つまり釈放される)に向けた活動も検討します。被害者と示談したり、有利な情状証拠や、被疑者の主張を裏付ける証拠の収集といったことを行います。
検察官は、勾留期間中に集めた証拠によって起訴・不起訴を決めます。よって、起訴・不起訴を担当検察官が決める前までに、不起訴(あるいは略式起訴による罰金処分というものもあります。これも釈放されます。)が相当であると判断できるように導く事情や証拠を集めなければなりません。
不起訴となると、刑事事件としては終了し、釈放され、無事被疑者という呼ばれ方が外れます。起訴されると、通常はそのまま勾留が継続され、被疑者は被告人という呼ばれ方になります。
2 逮捕されたのが20歳未満の場合
20歳未満の人の場合、少年法によって「少年」と扱われます。事件は「少年事件」と言われます。
少年であっても、逮捕・勾留や捜査の流れなどは基本的には変わりません。以下、異なる点について解説します。
勾留場所が、警察の留置場ではなく少年鑑別所になることがあります。
また、勾留という法的手続ではなく、観護措置という手続がとられ、少年鑑別所に収容されて、取調べや調査を受けることもあります。これらの違いは、少年の年齢、非行歴の有無及び内容、事案の内容などによります。
また、少年事件は(嫌疑不十分、つまり犯罪行為があったとはいえない場合を除き)、原則として全件が家庭裁判所に送致され、少年審判を受けることになります。
被疑者が被害者と示談をして起訴猶予(不起訴処分)で手続が終わる、といったことは少年事件ではありません。ただし、示談しても無意味ということではなく、その後の少年審判の決定や、保護処分の内容に影響することは有り得ます。
なお、改正された少年法が2022年4月から施行されます。
改正された主な内容は、18歳以上の少年を「特定少年」として、原則として、成人と同じ手続で審理を受けさせるとしたことです。また、実名等の報道(推知報道)の禁止について一部を解禁したことなどもあります。17歳以下の少年とは異なる特例を定めていますので、詳しくは担当弁護士にお尋ねください。
3 起訴されたとき
起訴された人を、被告人と言います。
起訴されると、その時に弁護人が付いていない場合は、国選弁護人の選任手続がとられます。裁判が始まるまでに、弁護人と打ち合わせをして準備します。第1回の裁判は、通常、起訴されてから約1か月ないし1か月半あまり後に開かれます。
ここで、逮捕されず、身柄拘束されていなければ、弁護人と事務所などで面談できますので、弁護人との公判準備・打合せはしやすいです。他方、勾留された状態で起訴された場合は、保釈されない限り、警察の留置場または拘置所の面会室ですることになります。打ち合わせだけでなく、自由が束縛された状態でただ裁判を待つのは苦痛です。家族にも会いたいし、仕事も心配なことでしょう。
そこで、被告人の身柄を解放するため、保釈の許可を裁判官に求めることが重要な課題になります。
保釈を裁判所に申し立てると、裁判官は諸事情を吟味し、相当と判断されれば、保釈保証金を準備させることで、保釈の許可が出ます。
保釈保証金の金額は事案等にもよりますが、少なくとも100万円以上を準備する必要があります。すぐに保釈保証金を用意できない方でも、支援する制度もあります。
保釈が認められて釈放されても、釈放が実現しなくても、弁護人は、被告人と協議しながら、被告人の権利・利益を守り、実現させるための公判活動をすることになります。
4 少年の裁判手続
少年の場合は、事件が家庭裁判所に送致され、少年審判手続が行われます。それまで私選弁護人を選任していた場合は、その弁護人に引き続き付添人として依頼することができます(少年審判では、「弁護人」ではなく「付添人」と言います)。私選付添人が付いていない場合には、国選付添人が選任されることもあります。
少年審判は、家裁送致日から約4週間後までに開かれており、その最終日の数日前ころを審判期日、つまり処分が決められる日として指定されているのが実状です。
審判期日までには、鑑別所職員による面接及び各種検査・調査などを受け、家裁調査官による調査、保護者面談なども行われます。
成人の刑事事件と異なり、少年事件は保護事件と呼ばれ、少年の健全育成を図ることが目的とされています。少年の可塑性(かそせい)というのですが、少年の場合は更生の度合いやスピードが非常に良く、保護の対象とされているからです。
付添人(弁護士)としては、少年や家族と面談し、なぜ非行事実に走ってしまったのか、現れた問題点を解消して、更生に向けた環境調整を図るための人材の発見、協力確保に努めます。
そして、これらを報告書にして家裁に提出するなどし、少年にとって有利かつ適切な保護処分になるよう、調査官や裁判官と協議等することが主な活動になります。
家族との役割分担など、詳細は担当弁護士と相談してください。